殊更目標もないが、とにかく成功したい、でもどうしたらいいのかわからない、という人が大勢いる。現実はこのようなものである。目標を是非達成させて成功したい、という人は、したがって非常にいいポジションに既に立っているといえる。
ところで私も、大学二年生の頃は、殊更目標がないが成功したい、という部類の人間だった。そこで自己啓発書を読みあさった。成功者と言われる人たちは、どうやって成功したのだろうか、ということに関心があったからである。
一番私が知りたかったことは、彼らはどうやって「自分の目標」を決めたのか、という点であった。しかし、多くの自己啓発書は、既に目標を持っていて、そして成功した人々ばかりが登場するのであった。それはそれで、私にやる気を起こさせるものではあったが、本を閉じてしまうと、元の現実の自分にあっという間に戻ってしまうのである。そこで私はそれらの本はトランキライザーに過ぎない、と思うようになった。
唯一、ナポレオン・ヒルの『巨富を築く十三の条件』(当時は実業之日本社が出版していた)という新書本には、やや私の要求を満たすことが書かれていた。同時に、輝かしい成功に至る法則が順序よく書かれていたことに強く引きつけられた。
ただ、新書版だけあって、いかにも薄い。こういう書籍は、やはり「思考は現実化する」を読んだ後の纏めとして、随時目を通すためのハンドブックという役割の方が強いと思われる。
ところで私は、自分の脳力を高めようと、大学時代に自律訓練法という一種の自己催眠技法を独習して一年半かかってマスターした話を講演などでよくする。
ひとたびマスターすると、これがなかなか素晴らしい。そこで、この技法を普及させよう、という気持ちが持ち上がった。私は自分の将来の目標をこうして掴むことが出来た。
むろん、自律訓練法だけではビジネスにならないことが分かりかけた頃、朝日新聞に当時の通産省工業技術研究所人間工学部が、瞑想の境地に至らせる装置を開発した、という記事を載せた。脳波バイオフィードバック装置というもので、瞑想に近い状態、あるいは催眠に近い状態になると、ヘッドフォンからヒグラシの鳴き声が聞こえてくる…。
私はこの記事を読むやいなや、直ちに工業技術院に電話をかけていた。自律訓練法は自分自身に暗示をかけていって、最後に自己催眠状態、つまり一種の瞑想状態になる技法である。この状態の時、たとえば自分の目標を映像化しようとすると、明瞭な映像が浮かんでくる。あるいは、これまで考えもしなかったアイデアが浮かんでくることもある。
もっとも自律訓練法の主要な目的は、セルフコントロールで本来の自分を取り戻し、また深いリラックスを可能にさせる、というものである。とはいえ、この自律訓練法のトレーニングは、非常に退屈である。ものの本には、二週間でマスター出来るとか書いてあるものもあるが、私のように徹底的にやろうとすると、一年半は必ずかかる。そして、なぜ退屈で、しかもマスターに時間がかかるかと言えば、自分が今どこまで上達しているか、殆どわからないからである。
…「自分の背の押し方 私の場合」その2に続く